『窓ぎわのトットちゃん』が時を超えて読み継がれる理由

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こんにちは。福岡県北九州市のうつ不登校相談・カウンセリングルームSmileAgain(スマイルアゲイン)です。

私がまだ小学生の頃、空前のベストセラーとなった、「窓ぎわのトットちゃん(黒柳徹子 著|1981年|講談社)」。

40年余の歳月を経てなお、色あせないこの名作には、子育てのヒントだけでなく幸せに生きるヒントが、ぎっしりつまっています。

小学校を(机のひきだしを何度も開けたり閉めたり、窓のところでチンドン屋さんを呼びこんだりするために)1年生で退学になったトットちゃん。ママは「あの子の性格がわかっていただけて、みんなと一緒にやっていくことを教えてくださるような学校はないだろうか・・・」と、本物の電車が校舎の学校、「トモエ学園」の門をくぐります。

そこでトットちゃんの長―い話を聞き終えた後、優しく頭に手を置いて、

「じゃ、これで、君はこの学校の生徒だよ」と言った、校長先生。

トモエ学園の授業のやり方は、「各自自分の好きな科目から始めていい(作文を書いている子の後ろで、物理の好きな子が実験をしている、というのがあたりまえの風景)」というもの。

「どんな子も生まれた時にはいい性質を持っている。それが大きくなる間に色々な周りの環境とか、大人たちの影響で、スポイルされてしまう。だから早く、この「いい性質」を見つけて、それを伸ばしていき、個性のある人間にしていこう」という、小林宗作校長先生の教育方針のもと、「心の教育」にとても力を入れた学校でした。そして様々なハンディキャップを持つ子たちも、分け隔てされることなくみんな一緒に学んでいました。

ここから、長寿番組「徹子の部屋」でおなじみの国民的タレント黒柳徹子さんや世界的物理学者の山内泰二さん(黒柳さんは山内泰二さんの思い出を「いつもいつもアルコール・ランプやフラスコや試験管のそばにいるか、難しそうな科学や物理の本を読んでる姿しか、私には思い出せない」と本の中で語っています)をはじめ、各方面で第一線で活躍する人たちが、巣立っていったのです。

トットちゃんにとってかけがえのない友達である小児麻痺を抱える男の子、山本泰明ちゃんとの出会いはとても印象的です。

その子の歩くのを、うしろから見たトットちゃんは、それまでキョロキョロしてた動作をピタリと止めて、ほおづえをつき、じーっとその子を見つめた。その子は、歩く時、足を引きずっていた。とっても、歩くとき、からだがゆれた。始めは、わざとしているのかと思ったくらいだった。

でも、やっぱり、わざとじゃなくて、そういう風になっちゃうんだ、と、しばらくみていたトットちゃんにわかった。(中略)トットちゃんは、クルリと振り向いて、その子に聞いた。

「どして、そんなふうに歩くの?」その子は、優しい声で静かに答えた。とても利口そうな声だった。「僕、小児麻痺なんだ」「しょうにまひ?」トットちゃんはそれまでそういう言葉を聞いたことがなかったから、聞き返した。その子は、少し小さい声でいった。「そう、小児麻痺。足だけじゃないよ。手だって・・・」そういうと、その子は、長い指と指がくっついて曲がったみたいになった手を出した。トットちゃんはその左手を見ながら、「なおらないの?」と心配になって聞いた。その子は、だまっていた。トットちゃんは、悪いことを聞いたのかと悲しくなった。すると、その子は、明るい声で言った。

「僕の名前は、やまもとやすあき。君は?」トットちゃんは、その子が元気な声を出したので、うれしくなって、大きな声でいった。「トットちゃんよ」こうして、山本泰明ちゃんと、トットちゃんのお友達づきあいが始まった。

私たち大人とは違う、子どもの持つ、くもりのない心の素晴らしさが、ここにはいきいきと描かれています。『障害』とか関係ない。だって友だちだから。

「トモエ学園」は太平洋戦争末期、空襲により焼失しましたが、今この令和の日本で、どんな子も取り残されず幸せに育つようにという、トモエ学園と同じ志を共有するたくさんの皆さんが、日々自分のことさえ後回しにして力を注がれています。しかし未だ多くの支援者の皆さんが、様々な問題を抱えて孤軍奮闘され、そして不登校をはじめ発達障害・知的障害・重度の身体障害などを持つ子のお母さんお父さんや当事者の方々が、『普通の学校教育』から暗黙のうちにはじかれ、どこに誰に助けを求めてよいかもわからぬままひとりぼっちで孤立し、力尽きています。

ひとりひとりが(自分を犠牲にすることなく)できることでいい。その小さな力が集まって大きなうねりとなって政治をはじめ、誰ひとりとして見捨てられることのない世の中へと変えていく力になれば。点滴穿石(小さな水滴でも長く落ち続けることで、いつか岩に穴を開けることさえできる)~大樹を揺るがす蟻たちの一匹として、私も微力ながらあきらめずにこれからも続けていこう。

そんな想いを胸に、(実家の本棚からこっそり取ってきた)母の手あかで黒く汚れた本を閉じました。

追記:2023年もあとわずかとなったこの冬、嬉しいニュースが飛びこんできました。1981年の初版から42年の時を経て、大人になったトットちゃんのその後(=黒柳徹子さんの、テレビ時代草創期にNHKの専属女優となってからの活躍等)が綴られた『続 窓ぎわのトットちゃん(講談社)』が2023年10月3日に講談社より刊行、 そして2023年12月8日より全国東宝系にて公開の映画『窓ぎわのトットちゃん』。予告編ではまさに、トットちゃんと泰明ちゃんの出会いをはじめ心あたたまるエピソードがつまっていて、トットちゃん役の大野りりあなさんの声は、なつかしい友だちが「ひさしぶりだね!元気にしてる!?」と元気いっぱいに呼びかけてくれているような…涙腺のあたりがポカポカしてきて…やばい(^^;)。でも、うれしい涙。

引用元| 「窓ぎわのトットちゃん」(黒柳徹子 著 講談社|1981年第一刷発行)

引用画像|いわさきちひろ(「子どものしあわせ」表紙(1969年初出|草土文化)

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