小説「国宝」あらすじ・キャスト~男と女~

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小説『国宝(吉田 修一著)』。2021年に第1刷が発行されてから累計発行部数は200万部を超え、吉沢 亮/横浜 流星主演の映画版は興行収入200億円を超える快挙を成し遂げました(2026年2月)。

本ブログでは、

・ 小説版のあらすじについて簡単に、引用をまじえながら、綴っていこうと思います。

上 青春篇

第一章 料亭花丸の場

主人公 立花喜久雄の父権五郎が率いる立花組の新年会の場面が華やかに描かれます。

普段は腹巻にジャンパー姿の組員たちもこの日ばかりは背広姿。年末に近所の床屋で刈らせた頭もすがすがしく、その横ではフランスの女優のような化粧に、髪を高く結い上げた女房たちが、あちらこちらに顔を向け、年賀の挨拶に忙しくしております。

この新年会で親友の徳次とともに、歌舞伎の舞踊を披露した喜久雄と、来賓としてその場に居合わせた二代目花井 半二郎。

こりゃ、見事な墨染でんなあ。こんな達者な芸妓さんが、長崎にはおりますねんなあ」

思わず呟いた半二郎に、

「いや、あれ、芸妓じゃのうて、立花親分とこの、中学生の一人息子ですたい」

舞を終え、汗みどろの喜久雄と徳次が風呂に飛び込むシーンでは、極寒の雪と湯気のたちこめる風呂との対比、若い二人の肉体からほとばしる汗が躍動感たっぷりに描かれます。

「おー、さぶさぶ」(中略)

湯船から出るのは寒いので、喜久雄が横着してワセリンを塗りたくった顔を突き出しますと、徳次が湯桶でじゃぶじゃぶと湯をかけてくれ、白粉に濁った湯がタイルを流れて排水口に吸い込まれます。

新年会の華やぎは敵対する宮地組の襲撃を受け、阿鼻叫喚の様相を呈します。

人間だけでなく、まさに徳利や小皿までが乱闘に加わっているような有様で、畳のうえではおせち料理の伊達巻や黒豆が踏みつぶされ、盆にこぼれた酒に、飛び散った血が滲んでおります。

この章ラストで、喜久雄の父権五郎は宮地組の凶弾に倒れ、命を落とします。

第二章 喜久雄の錆刀

恋人の春江の家で大晦日を過ごす喜久雄の元に、鑑別所を脱走した徳次がやってきて、喜久雄が不甲斐ないと嘆きます。

「坊ちゃん・・・、やっぱりこのままじゃ、あまりにも情けなか。親分も泣きなさる。一人息子が親の敵討ちも忘れて、女の家でこうやって遊び惚けとるなんて・・・」

人生には勝つときもあれば、負けるときもございます。それは十五の喜久雄にとて分かっております。ただ、自分の父親がその人生の最後を負けで終わるなど、到底、息子には我慢ならないことなのでございます。

喜久雄の通う学校に名士として訪れた、宮地組の会長にドスを持って襲いかかった喜久雄でしたが…。

第三章 大阪初段

事件は大人たちの話し合いで穏便に片づけられたのですが「立花の息子は、すぐに長崎から追い払うこと」と条件をつけられ、新年会で出逢った歌舞伎役者、花井半二郎の大阪の家へ徳次とともに世話になることとなった喜久雄。女将の幸子、手代の源吉、女中頭のお勢たちにあたたかく迎えられます。そしてのちにかけがえのない存在となる俊介との出逢い。初めは喧嘩腰だった俊介でしたが…。

俊介は不機嫌そうに席を立ちますと、「この丼、片づけといてな」と、喜久雄の肩をポンと叩いて出ていこうといたします。そこでやっと我に返った徳次が、「おうおう、片づけとけ?お前わい、誰にもの言いようか分かっとるんか!」と、その胸ぐらを掴みます。たいがいの少年は、場慣れした徳次の啖呵に震え上がるのですが、こちらの俊介、見かけによらず肝が据わっておりまして、「誰にて、お前わいらにじゃ!ボケ!」(中略)ただ、そこで動いたのが幸子でして、「あー、邪魔くさい。どうせ、アンタら、すぐに仲良うなるんやさかい。いらんわ、そんな段取り。でもまあ、しゃーない。喧嘩するんやったら、今日明日でさっさと終わらしといて」

半二郎の前もっての計らいで、この日俊介の義太夫の稽古を見学した喜久雄は、みるみる歌舞伎の世界に魅せられていきます。

第四章 大阪二段目

喜久雄を追って恋人の春江が上阪してきます。

今では自転車の二人乗りをするほどにうちとけた喜久雄と俊介。

半二郎は喜久雄を「部屋子へやご」(幹部俳優のもと歌舞伎の全てをみっちりと仕込まれ、素人の子でも見込みさえあれば、将来大きな役がつく可能性があり、幹部俳優と同格の扱いを受ける)にする旨、喜久雄の育ての母マツに手紙を送ると、夫亡き今困窮をきわめる中でも、喜久雄への仕送りは欠かさなかったマツは、質屋に頭を下げて借り出してきた正絹の京友禅姿で、大阪の我が子の元へ駆けつけます。こうした大人たちの無言の庇護はのちに喜久雄を「生来の芸品がある」と称される役者へと育てていくのです。

俊介の手引きで、祇園の茶屋遊びに足を踏み入れた喜久雄は、舞妓の市駒から「うちの芸妓人生、喜久雄さんに賭けるわ」と言われ、この市駒と一緒にいると、自分が一回りも二回りも大きくなったように思えてきたのでした。

半二郎に連れられ、名優 小野川万菊に挨拶をした喜久雄。万菊から告げられます。

「ほんと、きれいなお顔だこと…」「でも、あれですよ、役者になるんだったら、そのお顔は邪魔も邪魔。いつか、そのお顔に自分が食われちまいますからね」

恐怖を感じたまま、万菊演じる「隅田川」の「班女の前」を観た喜久雄は、その怪奇な世界に引きずり込まれ、「こんなもん、ただの化け物やで」と逃れるように笑い飛ばしてみせたところに、俊介は「たしかに化け物や。せやけど、美しい化け物やで」と応えるのでした。

第五章 スタア誕生

半二郎が関西歌舞伎復興のため毎年行う地方巡業へ俊介らと向かった先で、興行会社「三友」の豪放磊落な梅木社長と出逢います。

歌舞伎に冷ややかな視線を送る、梅木社長の部下竹野は「歌舞伎なんて、ただの世襲だろ?今は一緒に並べてもらってても、最後に悔しい思いして人生終わるのアンタだぞ」と憎まれ口をたたき、喜久雄と大喧嘩の大立ち回りを演じます。

そんな中長崎へ里帰りした喜久雄は、実家の屋敷も抵当に取られ、母マツが女中として働く姿を目の当たりにします。マツの胸中を慮り、慰めの言葉をかけるかわりに、今度、南座で主役として俊介と「二人道成寺」を踊ることに決まった旨を、母に伝える喜久雄でした。

喜久雄と俊介の「二人道成寺」は大好評を博し、とりわけ若い女性ファンを魅了し、当日券を求める長蛇の列は日に日に長くなっていきます。

第六章 曽根崎の森の道行

一方、(喜久雄の長崎時代からの親友の)徳次は悪友の弁天とともに、うまい儲け口を見つけたと、北海道へ渡っていたが、ヤクザまがいの悪徳手配師にひっかかり、劣悪な労働環境に堪えかね、わずかひと月で逃げ出して、大阪へ舞い戻っていました。西成の労働福祉センターへ訴えようと駆け込んだ矢先、幸運にもドキュメンタリー映画の撮影と出くわし、涙と怒りをまじえての陳情ぶりが、そのままカメラに収められたのをきっかけに、清田誠監督から、「次回作の主演を」とのオファーがかかります。その作品がキネマ旬報文化映画ベスト・テンの第六位に入ったのをきっかけに、花井半二郎の口利きで、「三友」大部屋俳優の一人として正式に雇い入れられたのです。

そんなある日、『曾根崎心中』公演を控えた半二郎が交通事故にあい、急遽代役が必要となります。喜久雄をはじめ周囲から、代役は血筋のものしかありえないであろうと説かれ、俊介は心の準備を固めます。

しかし、半二郎直々の指名で代役に選ばれたのは~世襲ではなく実力~、喜久雄でした。

「まあ、しゃーないわ。これが誰か他のやつの評価やったら、『アホか。どこに目ついとんねん!』て、文句のひとつも言うんやけど、『実の息子より部屋子のほうが芸が上手い』言うのが、あの天下の二代目花井半二郎なら、もう諦めるしかないわ」

「とにかく丹波屋の一大事。いや、関西歌舞伎の一大事や。喜久ちゃんがちゃんと代役勤まるよう、俺にできることはなんでもするしな」

「俺な、今、一番欲しいの、俊ぼんの血ぃやわ。俊ぼんの血ぃコップに入れてガブガブ飲みたいわ」

喜久雄も俊介も外野の声など気にする余裕もなく、ただ必死に勤めあげ、千穐楽を迎えた翌朝、

父上様 探さないで下さい 俊介

置手紙を一通残し、俊介は出奔してしまったのです。

そしてともに姿を消したのは、喜久雄の恋人であったはずの、春江なのでした。

第七章 出世魚

冒頭で喜久雄は、徳次と荒風関、女優の赤城洋子とともに麻雀に興じます。

かつての爆発的な人気は一過性のものだったと認めざるを得ない日々、半二郎の勧めで映画界に進出するも、今一つやる気を見出せない喜久雄です。

芸妓市駒との仲も続き、彼女は喜久雄の子を宿します。俊介の母幸子は、市駒の面倒を看ると買って出て、産褥期が明けるまで、大阪の自宅に同居させて世話をしたのです。

男なんてどいつもこいつも甲斐性なしで意気地なしのアホばっかりや。でもな、生まれてくる子には、何の罪もないねん。

かねてより糖尿から軽度の緑内障と診断されていた半二郎だったが、多忙を極める中放置していたことがたたって、気づいたときには、すでにどうにもならない状態でした。以降、喜久雄は半二郎の手をひき「一段降りて、草履です」「旦那はん、最後、小さく一段上がって鏡前です。よろしか?」と舞台に上がる半二郎をサポートするようになります。そんな中舞台にあがる直前、半二郎が喜久雄に囁きかけます。

「なあ、喜久雄。いろいろ考えたんやけどな。まだこうやってぼんやりとでも目が見えとるうちに、わしもな、もう一花咲かせたい思うとるんや。…襲名のことやけどな。わしは『花井白虎』になる。そやから、お前も『花井半二郎』継いだらええ」

「そやかて、俊ぼんが…」

半二郎の妻、幸子は喜久雄に「辞退してえな」と迫ります。

「…うち、ほんまにほんまに腹立ってんねん。分かるやろ?『半二郎』いう名前は、俊介にとって最後の砦や。たしかに今は行方知れずやけども、この名前があるかないかで、何もかもが全部違ってくんねん。その最後の砦まで、あの人はアンタにくれてやる言うてる。…役者なんて、ほんま、意地汚い生物やわ。うちの旦那さん、もうあんな体やで。それやのに、我が子の人生を踏み潰しても『花井白虎』になって舞台に立ちたいんやと…」

それでも最後には「もう腹くくるわ。うちは意地汚い役者の女房(で、母親で、お師匠はんや)。こうなったら、もうどんな泥水でも飲んだるわ。」と決意を固める幸子でした。

そうして迎えた大阪中座での襲名披露興行初日。

大喝采の中、緊張気味な喜久雄の挨拶が終わったそのとき、やっと面を上げた白虎は、その口から大量の潜血を吐いたのです。

第八章 風狂無頼

白虎には糖尿病とすい臓がんの併発による余命半年、という診断が下されます。

また「三友」の梅木社長は子会社に左遷が決まり、親がないのは首がないのも同じと言われるこの歌舞伎界で、白虎と梅木の後ろ盾を失う不安を抱える喜久雄を慮って、梅木社長が後見を請い頭を下げたのは、東京・駿河屋の姉川鶴若でした。

この鶴若の無視・陰湿な叱責・いやがらせ、挙句一年にも及ぶ地方巡業を突然言い渡され、すでに決まっていた役も鶴若一門の若手に差し替えられるなど、長きにわたり喜久雄を苦しめますが、病床の白虎には「みなさん、ようしてくれますわ。せっかくやから、修行もかねて、地方巡業もやらせてもらおう思うてますねん」と愚痴一つこぼす喜久雄ではありません。

ですが、白虎は何もかもわかっていたのか、

どんなことがあっても、おまえは芸で勝負するんや。ええか?どんなに悔しい思いしても芸で勝負や。ほんまもんの芸は刀や鉄砲より強いねん。おまえはおまえの芸で、いつか仇とったるんや。ええか?約束できるか?